大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和28年(う)1732号 判決

被告人 荒巻正一郎

〔抄 録〕

本件については、昭和二十四年七月二十五日附をもつて公訴が提起され、その後更に同年十二月十五日附をもつて重ねて公訴が提起されたことは論旨の指摘するとおりであるが、本件訴訟記録を調査してみると、右昭和二十四年七月二十五日附の第一次の起訴状は、公訴の提起があつた日から二箇月以内にその謄本が被告人に送達されなかつたことが明らかであるから、右公訴の提起は、刑事訴訟法第二百七十一条第二項の規定により、公訴提起の時にさかのぼつてその効力を失つたものである。ところで、起訴状の謄本が公訴の提起があつた日から二箇月以内に被告人に送達されなかつた場合には、別段の裁判をまつまでもなく当然公訴の提起が公訴提起の時にさかのぼつて直ちにその効力を失うものか、或は又公訴棄却の判決又は決定等の裁判をまつて初めてその効力を失うものかというに、刑事訴訟規則第百七十六条第二項後段は、公訴の提起があつた日から二箇月以内に起訴状の謄本が被告人に送達されなかつたため、公訴の提起が効力を失つたときは、直ちに検察官にその旨を通知しなければならないと規定しているが、若しこの場合に判決又は決定等の裁判を要するものとすれば、この裁判の告知は、同規則第三十四条によつて、公判廷においては、宣告によつてこれをし、その他の場合には、裁判書の謄本を送達してこれをしなければならないことになり、なお検察官に対する送達は、同規則第六十四条により、書類を検察庁に送付してこれをしなければならないのであるから、刑事訴訟規則第百七十六条第二項後段の規定は同規則第三十四条及び第六十四条の規定と重複した無用のものに帰するばかりでなく、刑事訴訟法及び刑事訴訟法規則の各条規を検討してみても、この場合に公訴棄却の判決又は決定等の裁判を要するものとした趣旨は認められないから、起訴状の謄本が二箇月以内に被告人に送達されなかつたため、公訴の提起がその効力を失つた場合には、公訴棄却の判決又は決定等の裁判をまつまでもなく、直ちに当然公訴の提起は公訴提起の時にさかのぼつてその効力を失つてしまうものであり、なお裁判所としては、直ちに検察官にその旨を通知すれば足り被告人に対しては、別段の通知をする必要はないものと解すべきである。もつとも、前記刑事訴訟規則第百七十六条第二項後段の規定は、刑事訴訟法第二百五十四条第二項後段がこの場合の公訴提起に公訴時効の進行を停止する効果を認めていないところから、裁判の告知に関する手続とは別に、検察官をして更に有効な公訴を提起し、もつて公訴時効の進行を停止する機会を与えるためのものに過ぎないとの見解もあり得るが、右刑事訴訟規則第百五十六条第二項後段が規定する通知によつて、検察官が直ちに改めて公訴を提起しても、その公訴提起は、前の公訴提起に対して公訴棄却の判決又は決定等の裁判を要するものとすれば、その裁判がない限り、いわゆる二重起訴として刑事訴訟法第三百三十八条第三号により公訴棄却の判決を受けるべき筋合となるから、右通知は全く無意味のものということになるし、又何らの裁判を要しないとすれば法律関係が不明確であるとの非難もあり得るけれども、公訴提起の時から二箇月以内に起訴状の謄本が被告人に送達されない時には公訴の提起は公訴提起の時にさかのぼつてその効力を失つてしまうものであるからおのずから公訴提起の効力が失効する時期を明確にすることができるばかりでなく、その場合には直ちに検察官にその旨を通知しなければならないのであるが、この通知によつて裁判所の見解なり判断なりが外部に対して明確に表示されることになるのであつて、必ずしも法律関係が何時までも不明確であるということにはならないのであるから、これらの非難はいずれも当らない。そして、本件訴訟記録によれば、裁判所は、本件第一次の公訴提起は、起訴状の謄本が公訴提起の時から二箇月以内に被告人に送達されなかつたため、その効力を失つたことを知つたので、昭和二十四年十月二十八日附をもつて検察官に対してその旨を通知し、検察官は、右通知により、右公訴の提起が効力を失つたことを知つて、その後同年十二月十五日附をもつて更に公訴を提起したことが明らかであるが、右第一次の公訴提起は起訴状の謄本が公訴提起の時から二箇月以内に被告人に送達されなかつたため当然その効力を失つてしまつたものであり、このことは検察官に対する右通知によつて外部に対しても明確に表示されているので、その後の昭和二十四年十二月十五日附の公訴の提起はいわゆる二重起訴に当らないから、原裁判所がこれについて審理判決をしたことは相当であつて、その訴訟手続には何らの違法はない。論旨はひつきようこれと異つた見解に立つて原裁判所の訴訟手続を非難し、且つ憲法違反を云々しているに過ぎないものであるから、採用しない。

註 この問題については刑訴法改正により第三三九条第一号によつて決定で公訴棄却をすることになる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!